



- 味の8割は「蒸らし」と「計量」で決まる!目分量は卒業しよう。
- お湯は90℃前後が鉄則。沸騰直後は雑味のパレードになるのでNG。
- 「土手」を崩さず、最後まで落とし切らないのがプロのクリアな味の秘訣。
ハンドドリップの淹れ方で味が劇的に変わる「5つの物理法則」

【Project 369】
美味しいコーヒーを淹れるために必要なのは、高い豆でも高価な器具でもなく、まずは「抽出の仕組み」を理解することです。なぜその動作が必要なのか、物理的な理由を知るだけで、あなたの腕前は一気に上達します。
蒸らしが「30秒」必要なのはガスの放出と飽和のため
ハンドドリップの最初に行う「蒸らし」。これは単なる儀式ではありません。物理的に非常に重要な「ガス抜き」の工程です。
新鮮なコーヒー粉には、焙煎時に発生した炭酸ガスが多く含まれています。このガスが粉の内部に残ったままだとお湯を弾いてしまい、成分を十分に引き出すことができません。お湯を注いだ瞬間にハンバーグのようにプクッと膨らむのは、ガスが放出されている証拠です。
なぜ30秒なのか?
ガスが抜けきり、お湯が粉の中心部まで浸透(飽和)するのに必要な時間が、概ね20秒〜30秒だからです。この時間を待たずに次のお湯を注いでしまうと、粉の表面だけが濡れて中が乾いている「未抽出」の状態になり、薄くて酸っぱい味の原因になります。
お湯の温度は90度前後がベストな科学的根拠
「沸騰したてのお湯」を使っていませんか? 実はこれ、ハンドドリップではやってはいけないNG行動の一つです。
科学的に見ると、コーヒーの成分は温度によって溶け出しやすさが異なります。
- 95℃以上(高温): 苦味、渋味、雑味成分が一気に溶け出す。
- 85℃以下(低温): 酸味が出やすく、甘みやコクが出にくい。
プロが推奨する90℃〜93℃という温度帯は、コーヒーの「甘み・酸味・苦味」が最もバランスよく抽出され、かつ「雑味」が抑えられるスイートスポットなのです。沸騰したら火を止め、蓋を開けて1分ほど待ち、適温になってから注ぎ始めましょう。
(参考:Specialty Coffee Association)
注ぎ方で味が変わる?「の」の字と水位管理の重要性
「の」の字を書くように注ぐ、とよく言われますが、これには理由があります。一点に注ぎ続けると、そこにお湯の通り道(チャネル)ができてしまい、周りの粉から成分が出ないままお湯だけが落ちてしまうからです。円を描くことで、粉全体にお湯を均一に行き渡らせることができます。
また、ドリッパー内の「水位」を一定に保つことも重要です。水位が高いと圧力(ヘッド圧)がかかり抽出スピードが速くなり、水位が低いと遅くなります。このスピードの変化が味のブレに直結します。
ポタポタと落ちる量と、上から注ぐ量を同じにするイメージで、水位をキープしながら注ぐのがコツです。
味が安定しない最大の原因は「計量」をしていないから

実は、味が安定しない原因の9割は「計量していないこと」にあります。コーヒーは化学反応と同じで、「粉の量」と「お湯の量」の比率(レシオ)が変われば、当然濃度も変わります。
プロの世界では「粉1:お湯15〜16」という黄金比率が存在します。例えば、粉が12gならお湯は約180cc〜192ccです。
毎回スケールを使って「粉の重さ」と「注いだお湯の重さ」を測る。たったこれだけで、あなたのコーヒーは劇的に安定します。「なんとなく」をやめることが、脱初心者への最短ルートです。
(参考:全日本コーヒー協会)
ドリッパーの「土手」を崩すと雑味が出るメカニズム
抽出中、ドリッパーの縁(壁側)に粉の層ができますよね。これを「土手(ドテ)」と呼びます。この土手にお湯をかけて崩してしまう人がいますが、これはNGです。
土手は、お湯をせき止めるダムの役割を果たしています。土手を崩してしまうと、お湯が粉の層を通らず、ペーパーフィルターの側面を伝ってそのままサーバーに落ちてしまいます(バイパス現象)。
これではコーヒーの成分が抽出されず、単なる「お湯混じりの薄いコーヒー」になってしまいます。お湯はあくまで「粉の中心(500円玉くらいの範囲)」に注ぎ、土手は最後まで守り抜きましょう。
プロが教えるハンドドリップの「コツ」と失敗しない手順

【Project 369】
ここからは、物理法則を踏まえた上での「実践編」です。私が普段行っている、失敗の少ない手順をご紹介します。
準備|器具の予熱とペーパーフィルターの湯通し
美味しい料理がお皿の温度にこだわるように、コーヒーも「温度管理」が命です。
抽出を始める前に、必ずドリッパーとサーバー、そしてカップにお湯を通し(湯通し)、しっかりと温めておきましょう。
冷たい器具に熱いコーヒーが触れると、一気に温度が下がり、酸味が強調されたり香りが飛んだりしてしまいます。また、ペーパーフィルターを湯通しすることで、独特の「紙の匂い」を取り除く効果もあります。このひと手間が、プロの味に近づく第一歩です。
実践|1投目は味の土台を作り2投目で濃度を調整
お湯は一度に全量注がず、数回に分けて注ぎます。それぞれの投下には役割があります。
1. 蒸らし(0投目): 粉全体にお湯を行き渡らせ、30秒待つ。
2. 1投目(味の土台):蒸らしの後、全量の40%程度まで注ぐ。ここでコーヒーの美味しい酸味と甘みを引き出します。
3. 2投目以降(濃度調整):残りのお湯を注ぎ、好みの濃さに調整します。
前半で「味」を出し、後半で「整える」イメージです。この役割を意識するだけで、メリハリのある味わいになります。
テクニック|抽出時間はトータル「3分以内」を目安にする
コーヒー豆から美味しい成分が出る時間は限られています。お湯と粉が接触している時間が長すぎると、後半には「渋み」「エグみ」「嫌な苦味」といった雑味成分が出てきてしまいます。
抽出開始から完了までの目安はトータルで2分半〜3分です。
もし3分を超えてもまだお湯が落ち切らない場合は、挽き目(メッシュ)が細かすぎる可能性があります。逆に早すぎる場合は粗すぎるかもしれません。時間を「味の答え合わせ」に使ってみてください。
失敗回避|最後まで落とし切らずにドリッパーを外す理由
これが最も簡単な「美味しくするコツ」かもしれません。
目標の抽出量(例:サーバーの目盛りまで)に達したら、ドリッパーにお湯が残っていても、迷わず外してください。
ドリッパーに残った最後のお湯や、表面に浮いている泡には、コーヒーのアクや雑味成分が多く含まれています。これを「もったいない」と思って最後まで落とし切ると、カップの最後に渋みが残ってしまいます。美味しいところだけをいただく、という贅沢な選択が、クリアな後味を作ります。
道具選び|2025年のトレンドと「ハリオV60」が選ばれる理由

2025年のトレンドとしては、透過スピードの速いドリッパーで、スッキリとしたフレーバーを引き出すスタイルが主流です。その中でも、私が初心者に最もおすすめするのは、やはり「ハリオ V60」です。
関連記事:ハリオ V60 レビュー:人気の理由と使い方を徹底解説
世界中のバリスタが愛用するこのドリッパーは、大きな一つ穴と螺旋状のリブが特徴。お湯の抜けが良く、「注ぎ方で味をコントロールできる」のが最大の魅力です。最初は難しく感じるかもしれませんが、今回解説した「物理法則」を意識して淹れれば、豆の個性を素直に引き出してくれますよ。
まとめ|ハンドドリップの淹れ方とコツで毎朝が変わる
ハンドドリップは、感覚ではなく「理論」で淹れるものです。今回ご紹介したポイントを押さえれば、もう「今日の味はハズレだ」と嘆くことはなくなります。
ぜひ明日の朝、コーヒーの香りに包まれながら、丁寧に淹れる時間を楽しんでみてください。
【保存版】ハンドドリップ淹れ方 ポイントまとめ
✅ 味を決める5つの物理法則
- 蒸らし: 30秒待ってガスを抜き、お湯の通り道を作る。
- 温度: 90℃前後が黄金バランス。沸騰直後はNG。
- 注ぎ方: 「の」の字で均一に。水位を一定に保つ。
- 計量: 「粉1:湯15」の比率をスケールで守る。
- 土手: 壁を壊さずバイパスを防ぎ、層を通す。
☕ 失敗しない実践手順
- 準備: 器具はお湯でしっかり予熱・リンスする。
- 1投目: 全体の40%を注ぎ、酸味と甘みを引き出す。
- 完了: 3分を目安に、お湯が残っていても外す。
🏆 おすすめのネクストアクション
- まずはキッチンにある「スケール」を用意して、粉とお湯を測ることから始めましょう!