




【Project 369】
サイフォンコーヒーの抽出において、「毎回味が変わってしまう」「お店のようなクリアな風味が出せない」と悩んでいませんか。実は、その原因の多くは豆の種類や挽き目ではなく、抽出中の「攪拌(かくはん)」、つまり混ぜ方にあります。サイフォンコーヒー攪拌の1回目と味を決める物理的理由を正しく理解し、実践することで、劇的に味が安定し、プロのような一杯に近づくことができます。
まず、1回目の攪拌の目的はお湯と粉の飽和とガス抜きにあるという点をしっかりと押さえておきましょう。お湯と粉をしっかり馴染ませるためのベストなタイミングはお湯が上がりきった直後です。ここで焦って闇雲にグルグル回さず十文字切りで味のベースを作ることが、雑味を出さないプロのテクニックです。理想的な状態である泡と粉と液体の3層構造ができるまで数回混ぜるのが正解とされています。もし、味が決まらない時は攪拌の強さと抽出時間を見直すことから始めてみてください。
また、仕上げの工程も味の決め手となります。サイフォンコーヒー攪拌の2回目とドームを作るコツについても深く学びましょう。2回目の目的は抽出停止とろ過の整流にあるため、決して力任せに混ぜてはいけません。火を消すと同時に優しく円を描き遠心力を生むことで、粉が底にきれいに集まり、スムーズなろ過を促します。さらに上級者のプロは「チラシ」を入れて回転を止めドームを作る技術を使います。抽出後に残るきれいなコーヒードームは均一にろ過された証拠と言えるでしょう。道具選びも大切で、竹べらを使うのは温度を奪わず匂いもつかないためです。
まとめ|サイフォンコーヒー攪拌は再現性が命ですので、ぜひこの機会に感覚ではなく理論に基づいた正しい所作をマスターしてください。この記事を読むことで、以下の点について深く理解できます。
- 1回目と2回目の攪拌が持つ本来の役割と、それぞれの正しいやり方
- プロが実践する「十文字切り」や「チラシ」などの具体的テクニックの意味
- 理想的な抽出状態である「3層構造」と「コーヒードーム」の作り方と確認方法
- 味が安定しない原因となるNG行動と、具体的な改善ポイント
サイフォンコーヒー攪拌の1回目と味を決める物理的理由

【Project 369】
- 攪拌の目的はお湯と粉の飽和とガス抜きにある
- ベストなタイミングはお湯が上がりきった直後
- グルグル回さず十文字切りで味のベースを作る
- 3層構造ができるまで数回混ぜるのが正解
- 味が決まらない時は攪拌と抽出時間を見直す
攪拌の目的はお湯と粉の飽和とガス抜きにある
サイフォンコーヒーにおける1回目の攪拌は、単に粉とお湯を物理的に混ぜ合わせるだけの作業ではありません。この工程には、科学的かつ物理的に明確な2つの重要な目的があります。一つは「飽和(ほうわ)」、もう一つは「ガス抜き」です。
まず「飽和」についてですが、これはロート内に上昇してきたお湯とコーヒー粉を素早く接触させ、粉の内部まで水分を均一に浸透させることを指します。ハンドドリップでいうところの「蒸らし」の効果を、サイフォンではこの一瞬の攪拌動作で作り出します。粉の一部が乾いたままの状態でお湯に浸かっていると、成分が十分に抽出されない「未抽出」の部分と、過剰に抽出される部分が混在し、味に深刻なムラが出てしまいます。
次に「ガス抜き」です。焙煎したての新鮮なコーヒー豆には、炭酸ガスが多く含まれています。お湯に触れるとこのガスが一気に放出されますが、ガスが粉の周りにバリアのように留まると、お湯の浸透を阻害してしまいます。そこで、攪拌によって積極的にガスを外部へ逃がし、お湯と粉が直接触れ合う環境を整える必要があります。適切な攪拌を行うことで、コーヒーの成分を効率よく、かつバランスよく引き出す土台ができあがります。
ここがポイント 1回目の攪拌は、抽出のスイッチを入れるための重要な儀式です。この段階で粉全体を均一にお湯に馴染ませることで、その後の抽出プロセスが安定し、豆本来のポテンシャルを余すことなく引き出すことができます。
ベストなタイミングはお湯が上がりきった直後
美味しいサイフォンコーヒーを淹れるためには、どのような混ぜ方をするかだけでなく、その「タイミング」も極めて重要です。1回目の攪拌を行うベストなタイミングは、ロートにお湯が上がりきった直後です。
フラスコ内の水が沸騰し、蒸気圧によってお湯が下から上へと移動します。ロート内にお湯が溜まりきった瞬間、コーヒー粉はお湯の上に浮いている状態になります。このまま放置すると、下層の粉だけがお湯に浸かり、上層の粉は乾いたままという不均一な状態が続いてしまいます。これでは抽出ムラが起き、雑味や薄い味の原因となります。
お湯が上がりきった合図としては、ロートの底から伸びる鎖(ボールチェーン)から出る泡の状態を確認します。大きな泡から細かい連続した泡に変わったタイミングが、お湯が上がりきり、温度が安定したサインです。
注意点 お湯が上がりきっていない段階(上昇途中)で激しく混ぜ始めると、ロート内のお湯の温度が安定せず、抽出不足になる可能性があります。必ずお湯が上がりきり、コポコポという沸騰音が落ち着いた瞬間を狙って攪拌を開始してください。
グルグル回さず十文字切りで味のベースを作る
「混ぜる」というと、スプーンでカップの中をかき回すように、円を描いてグルグルとかき混ぜる動作をイメージするかもしれません。しかし、サイフォンの1回目の攪拌で推奨されるのは、円運動ではなく「十文字切り(十字を切る)」という動作です。
円を描くように強くかき回しすぎると、強い遠心力が発生します。すると、コーヒー粉がロートの外壁に張り付いてお湯から離れてしまったり、過度な乱流(渦)によって微粉が舞い上がり、雑味が出やすくなったりします。一方、竹べらを縦・横・縦・横と切るように動かす「十文字切り」や、竹べらの先で粉をお湯の中に優しく沈めるように「ほぐす」動作は、余計な圧力をかけずに粉とお湯を馴染ませることができます。
この繊細な所作については、大手コーヒー器具メーカーであるKEY COFFEEなどの公式情報でも、竹べらを使って粉をほぐすように撹拌することが推奨されています。
著者の視点 イメージとしては、「混ぜる」というよりも「ほぐす」や「馴染ませる」という感覚に近いです。優しく粉をお湯の中に沈めてあげるような気持ちで竹べらを動かすと、雑味のないクリアな味わいに仕上がりますよ。
3層構造ができるまで数回混ぜるのが正解
では、具体的に何回くらい混ぜればよいのでしょうか。回数の目安としては「3回〜5回程度」と言われることが多いですが、回数そのものよりも「3層構造」ができているかを目視で確認することが何より重要です。
理想的な攪拌が行われると、ロート内は上から順に以下の3つの層にきれいに分かれます。
| 層 | 内容 | 役割・状態 |
|---|---|---|
| 上層 | 泡(ガス) | 白っぽいクリーミーな泡の層。ここにはアクや雑味成分が含まれており、蓋の役割も果たします。 |
| 中層 | コーヒー粉 | お湯にしっかりと馴染んで浮遊している状態。ガスが抜け、成分が抽出されています。 |
| 下層 | 液体 | 抽出された透明度の高いコーヒー液。 |
この「泡・粉・液」の3層がきれいに分離している状態が、適切な「飽和」と「ガス抜き」が行われた証拠です。竹べらでサッ、サッと数回ほぐし、粉全体がお湯に浸かってこの3層構造が見えたら、そこで直ちに攪拌をストップします。これ以上混ぜすぎると過抽出(雑味・エグみ)の原因になります。
味が決まらない時は攪拌と抽出時間を見直す
「どうしても苦すぎる」「味が薄くて物足りない」といった悩みがある場合、豆を変える前に、攪拌の強さや抽出時間(浸漬時間)を見直すことで味を自在にコントロールできる場合があります。
味の調整ガイド(トラブルシューティング)
- 味が苦い・エグい場合: 攪拌が強すぎる、または回数が多すぎる可能性があります。1回目の攪拌をより優しく、回数を減らしてみてください。また、抽出時間を5〜10秒短くするのも効果的です。
- 味が薄い・酸っぱい場合: 攪拌不足で粉がお湯に浸透していない可能性があります。しっかりと粉を沈めるように攪拌してください。抽出時間を少し長くすることで濃度を上げることも可能です。
基本の抽出時間(お湯が上がってから火を消すまで)は、トータルで45秒〜1分程度を目安にすると良いでしょう。この範囲内で、攪拌の加減と時間を微調整し、好みの味を探求してみてください。
サイフォンコーヒー攪拌の2回目とドームを作るコツ

【Project 369】
- 2回目の目的は抽出停止とろ過の整流にある
- 火を消すと同時に優しく円を描き遠心力を生む
- プロはチラシを入れて回転を止めドームを作る
- きれいなコーヒードームは均一にろ過された証拠
- 竹べらを使うのは温度を奪わず匂いもつかないため
- まとめ|サイフォンコーヒー攪拌は再現性が命
2回目の目的は抽出停止とろ過の整流にある
抽出時間の終わりに行う2回目の攪拌は、1回目とは全く異なる目的を持っています。それは「抽出の停止」と「ろ過の整流」です。
加熱を止めて抽出を終了させる際、そのまま放置してしまうと、粉がフィルターの上に不規則に積もってしまい、ろ過(お湯が下に落ちる工程)がスムーズに行われません。また、粉の層に偏りがあると、お湯が通りやすい部分と通りにくい部分ができ、雑味の原因となります。
そこで、攪拌によって意図的に液体の流れを作ることで、コーヒー粉を液中で舞わせ、お湯と粉が分離しやすい状態を作ります。また、回転流を作ることで微粉をロートの側面に分散させ、フィルターの目詰まりを防ぐ効果もあります。つまり、2回目の攪拌は「味を出す」ためではなく、「きれいに終わらせる」ための整える作業と言えます。
火を消すと同時に優しく円を描き遠心力を生む
2回目の攪拌を行うタイミングは、所定の抽出時間が経過し、火を消すと同時、または火を消した直後です。
この時の動作は、1回目の「切る」動きとは異なり、「回す」動きが基本となります。竹べらをロートの縁(壁面)に沿わせて、大きく円を描くように2〜3周させます。これによりロート内に穏やかな遠心力(渦)が生まれます。
コツは「優しく」 ここで強くかき回しすぎると、せっかく分離していた上層の雑味成分(泡)を再び液体の中に巻き込んでしまいます。あくまで「液体の流れを作る」程度の優しい力加減で回すことが重要です。
プロはチラシを入れて回転を止めドームを作る
より美しい抽出とスムーズなろ過を目指すプロのバリスタは、2回目の攪拌の最後に「チラシ(逆回転)」という技術を使うことがあります。
これは、円を描いて作った渦の流れに対し、最後に竹べらを逆方向に「スッ」と動かして(チラシを入れて)、液体の回転を意図的に止めるテクニックです。回転流を急停止させることで、遠心力で外側に広がろうとしていた粉が、慣性と重力に従って素直に中心に向かって沈殿し始めます。
この「回転を止める」動作がうまく決まると、粉がフィルターの中心にきれいに集まり、理想的な山型(ドーム状)に堆積しやすくなります。ただし、これは難易度の高い技術ですので、初心者のうちは「優しく回して、竹べらを垂直にスッと抜く」だけでも十分きれいなドームを作ることができます。
きれいなコーヒードームは均一にろ過された証拠

【Project 369】
抽出が完了し、コーヒー液が全て下のフラスコに落ちた後、ロートの底に残った粉の形を観察してみてください。これがきれいな山型、いわゆる「コーヒードーム」になっていれば、抽出成功の証です。
きれいなドームができているということは、お湯が粉の層を偏りなく均一に通過したことを意味します。お湯が均等に通ることで、一部から雑味が出たり、未抽出になったりすることを防ぎ、クリアな味わいが実現されます。プロのカフェオーナー(CAFÉ DU SOLEIL)が解説する記事などでも、抽出後のきれいなドームと泡の状態は、美味しく淹れられた目印として紹介されています。
(出典:Creema「プロに教わるサイフォン式コーヒーの淹れ方」)
ドームができない場合
粉が平らになっていたり、一部が大きく凹んでいたりする場合は、攪拌の回転が足りなかったり、逆に強すぎて粉が偏ってしまったりした可能性があります。また、豆の鮮度が古くガスが抜けている場合も、粉が膨らまずドームができにくくなります。
竹べらを使うのは温度を奪わず匂いもつかないため
サイフォンの攪拌には、一般的に「竹べら」が使用されます。金属製のスプーンやプラスチックのマドラーではなく、なぜ伝統的に竹製が選ばれるのでしょうか。それには、美味しいコーヒーを淹れるための合理的な理由があります。
- 温度を奪わない:竹は熱伝導率が低いため、高温のお湯に入れた際に湯温を下げにくいというメリットがあります。抽出中の急激な温度低下は味のブレにつながるため、温度を一定に保つことは非常に重要です。
- 匂いがつかない:竹は吸水性が低く、以前に淹れたコーヒーのオイルや匂いが残りにくい素材です。衛生的に保ちやすく、コーヒーの繊細な香りを邪魔しません。
- ガラスを傷つけない:ロートは繊細なガラス製です。金属製の道具を使うと、攪拌時にガラスに当たって傷がついたり、最悪の場合は割れてしまったりするリスクがあります。竹は適度な柔らかさがあり、器具を保護します。
このような理由から、プロの現場でもサイフォンには竹べらが愛用されています。専用の竹べらは適度なしなりがあり、攪拌の強弱をコントロールしやすいのも大きな利点です。
まとめ|サイフォンコーヒー攪拌は再現性が命
サイフォンコーヒーにおける攪拌は、感覚で行うものではなく、物理的な理由に基づいた正確な操作が求められます。今回ご紹介したポイントを意識して、日々の抽出に取り入れてみてください。
- サイフォンコーヒーの味の8割は1回目の攪拌で決まる
- 1回目の攪拌の目的は、お湯と粉の「飽和」と「ガス抜き」
- ベストなタイミングは、お湯がロートに上がりきり温度が安定した直後
- 1回目はグルグル回さず、「十文字切り」で優しくほぐす
- 泡・粉・液体の「3層構造」ができたら、すぐに攪拌を止める
- 2回目の攪拌の目的は、スムーズな「ろ過の整流」と「抽出停止」
- 2回目は火を消すと同時に、優しく円を描いて回す
- 上級者は「チラシ(逆回転)」を入れて粉を中心のドーム状に集める
- 抽出後の粉がきれいな「コーヒードーム」になれば、均一にろ過された証拠
- 味が苦い場合は攪拌を弱くし、薄い場合はしっかりと粉を沈める
- 抽出時間はトータルで1分以内を目安にし、過抽出を防ぐ
- 道具は温度変化が少なくガラスに優しい「竹べら」を推奨
- 毎回同じ動作(再現性)を意識することが、プロの味への最短ルート